結納


 一般に両家の間に媒酌人をたて、婚約が成立すると、結納を取り交わす。結納の形式は、中国の「禮記」に六礼としてある「納釆」「問名」「納吉」「納徴」「請期」「親迎」が日本に移入されたものである。これから両家が新しく姻戚関係を結ぶため、男性から酒肴を持参して飲食を共にして、結び申しいれて祝合う時の酒肴を「ゆいのもの」といったことから、一般に結納といわれるようになった。
 明治時代に入り、結納の品物のかわりに結納金などの料(現金)に変化し、今日に至っている。要するに結納は、結婚の正式の申し入れであり、結納をとりかわすことで両家の間に正式に婚約が成立する大切な儀式である。

1 結納品
 結納品には関東式と関西式がある。関東式は基本的にはすべての結納品を一つの台に乗せた形である。そのため一つ一つの品が縦長に作られ、水引き飾りも平面的である。これに対して関西式は、一台一品が基本で、水引き飾りも立体的に作られているのが特徴で、結納品は、一般に九品目、七品目、五品目などのセットがある。

(1)品目の内容
◎九品目の内容
@ 長熨斗=あわびののしで不老長寿の象徴。海産物のなかで最も貴重な食物であったので、これを贈るのは最高のもてなしであった。
  これが現今では贈り物に対して祝意を表す意味で改良され,のしをつける習慣が今日に至っている。

A 目録=結納の品目で,結納の品名と数量を個条書きにしたもの。贈る側は親の名,本人の名のどちらでもよいが,受書は相手が親なら親名,本人なら本人名宛てとする。

B 金包=結納金で,男性側は「御帯料」,女性側は「御袴料」として現金を包む。かっては結婚衣裳として花新婦へ帯を贈ったが,それが帯料に変わった。

C 勝男節(鰹節)=保存食品として不時に備える意味と同時に,男性の強さを象徴。出陣のとき,これを携帯し武運長久を祈った。関西地方では松魚料として金を包む。梅飾りをつけるのがならわし。

D 寿留女(鯣)=健康と長寿を象徴。かめばかむほど味の出る仲のよい夫婦でありたいという願いを表す。

E 子生婦(昆布)=子孫の繁栄を願ったもの。「よろこぶ」に通じるとして、祝い事によく用いられている。子孫の繁栄を祈る気持ちから、子を生む婦人という字をあてた。

F 友白髪(友志良賀)=麻糸で白髪を表す。夫婦がともに白髪が生えるまでという、長寿を願ったもの。仲よく幸福に暮らすという意味を表す。西日本では、長寿を願うものとして高砂人形を加えて贈ることもある。

G 末広(寿恵広)=白無地の扇子。潔白無垢のしるしと、家運が末広がりに繁栄するという願いが込められている。

H 家内喜多留(酒樽)=酒を入れる柳樽のこと。現在では「御酒料」として品物に代えて現金を包む場合もある。酒樽は杉やヒノキの針葉樹で作るので、柳の葉のようにしなやかにという願いをこめ、家内の円満を願った。

◎七品目の内容
@長熨斗 A目録 B金包み(御帯料、御袴料) C寿留女(鯣) D子生婦(昆布) E友白髪(麻) F末広(扇子)。

◎五品目の内容
@長熨斗 A目録 B金包み(御帯料、御袴料) C友白髪(麻) D末広(扇子)。

◎三品目の内容
@長熨斗 A目録 B金包み(御帯料、御袴料)となる。
 現在では「御酒料」として品物に代えて現金を包んでいる。
また結納の時に婚約指輪を贈る場合には、「寿」あるいは「指輪」と書いた箱に水引をかけ、金包の左に並べる。
 また結納の時に婚約指輪を贈る場合には、「寿」あるいは「結美和」と書いた箱に水引きをかけ、金包の左に並べる。なお結納の品目の数は、媒酌人と打ち合わせて双方同じものを揃えるのが一般的な習慣である。結納品を乗せる台は、脚のついた白木の台がよく用いられ、この台に目録に書いてある順に乗せていく。並べ方は地方によってそれぞれ違いがある。

(2)結納金
 結納金は、結納品の金包の中に入れて贈る。男性側から女性に贈るときは「御帯料」または「小袖料」、女性側から男性へは「御袴料」と書くように、昔は実際に品物で贈ったものが現金で贈るようになった。以前は家の格式を重んじたり、結納の額で嫁入り仕度の程度を決めるということもあり、かなりまとまった金額が用意されたが、今日では収入に見合った応分の額といわれている。男性の場合は、サラリーマンの月収の2、3ヶ月分というのが相場であるが、資産や地方によっていろいろと異なっている。女性は通常、男性の額の半分を包む半返しが慣例になっている。関西では、結納の際にはお返しをせず、嫁入りの時大体三分の一程度を土産として持参する風習がある。
 また最近は半返しという形式にとらわれず、初めから男性側の額を少な目にし、女性側からはお返しをしないか、あるいは一割程度のごく少額を包む方式も増えている。また結納品の内容には地域によって違いがあるので、その違いなどをあらかじめ知っておいて、双方の婚約者および両親にアドバイスすることが大切である。

(3)結納目録の書き方
 目録は正式には大奉書紙を二枚重ねて横にして墨で書くが、簡便さを考え、結納品のセットの中に既成の目録がついていて、贈主と受取方の名前、年月日だけを書き入れればよいようになっている。日付は吉日とし、贈る側の氏名と相手の姓名を書く。昔は結婚は家と家との縁組であったので戸主の名前を書き入れたが、現在は結婚する本人同士の名前を書くのが一般的となっている。
 目録は五つ折りまたは七つ折りにするので、折り目に文字がかからないように注意して書く。書き終えたら左側から右側へと折り、別の奉書紙を上包にして、目録をその中に入れ、上下をうしろに折り返し、表には「目録」と書き入れる。目録は目を通すもので原則として水引きはかけない。なお目録を先方に差し出すときは、広蓋にのせて、ふくさをかけるのが正式。

(4)受書の書き方
 結納品を受け取ったしるしとして、相手方には「受書」を渡すのが決まりである。受書には頂いた品目を個条書きに書いた後、「右の通り幾久敷芽出度く受納いたしました」と書く。この場合に句読点は打たないのがしきたりである。

(5)結納品の扱い
 結納の品は、祝いの品と一緒に挙式当日まで床の間の脇に納めて置く。床の間がない場合には飾り棚などの上に置く。挙式後には、目録、親族書を保存するようにする。かって結納の式が終了すると、両家で結納の品を床の間に飾り、親族や仲人を一同に集めて披露するというしきたりがあった。これを「結納飾り」あるいは「結納開き」といった。

(6)家族書・親族書
結納を取り交わすときに、結納品と同時に家族の名前を記した「家族書」および親族の名前を記した「親族書」を交換する習慣がある。「家族書」には同居している家族全員の氏名と本人との続柄、年令を、祖父母・父母・兄姉・本人・弟妹の順に書く。親族書には親族の氏名、本人との続柄、年令、住所・職業などを記入する。
 一般には父方、母方の伯父・伯母・叔父・叔母とその配偶者を年長者から順に書いていく。家族書と親族書は正式には別々の用紙に書くものだが、最近では一緒に書くようになった。書き上がったものは、たたんで上包みをかけ、「家族書」「親族書」と表書きを書く。この「家族書」はのしや水引きは用いない。

(7)結納の日取り
 結納の日取りは大安、友引などの暦のうえでの吉日を選ぶのが習慣となっている。しかしこうした六輝が、実際の吉凶との間に科学的関係性は見いだせないので、問題にしない人が増えてきている。そこで両家の都合を考え、日曜祝日などが選ばれることが多い。しかしながら、六輝(六曜)の一通りの意味だけは知っておくことは必要である。

・大安(たいあん)。
大安吉日ともいい、万事進んでよしという。今日では多く結婚式などに用いられる。

・友引(ともびき)。
相引で勝負なしという日。朝晩は吉、昼は凶とする。もともと「留引」から、音がなまって、「ともびき」となったと解される。友を引くとしてこの日葬式を営むことを忌む俗信がある。会合は吉。

・先負(せんぶ)。
先んずれば負という意味で、平静を守っていれば吉。午前は凶、午後は吉という。陰陽道(おんようどう)で公事または急用に忌むという日。先負日。

・先勝(せんしょう)。
先んずれば吉。従って午前は吉、午後は凶。急いで吉という。朝から昼までにすれば万事吉。

・赤口(しゃっこう)。
大凶の日。正午のみ吉という。

・仏滅(ぶつめつ)。
仏滅日の略。勝負なしの日。俗に万事に凶である悪日とする。

(8)結納の日の服装
 結納は大切な儀式であるので、礼装または略礼装を着用するのが必要である。今日では略礼服が大勢を占め、男性本人はダークスーツに白のワイシャツ、フォーマルな柄のネクタイ、女性は洋装ならセミフォーマルなワンピース等で色は黒やグレーは避ける。媒酌人は、男性は黒またはダークスーツに白のワイシャツ、女性は無地に一つ紋か付け下げ程度にして、紋つきを正式として、羽織は着ないのがたてまえである。本人の両親は本人同様あらたまった装いにする。


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