西洋結婚史




2節 西洋の結婚の習俗とその起源
 西洋における結婚に登場する小道具や風習の意味を知ることで、現在に伝わっている西洋の結婚式の伝統的側面を知ることが出来る。資料は主にリリアン.アイヒラーの「人類の風習(1924)」を使用した。

(1)結婚披露宴
 全世界のほとんどの結婚披露宴には、飲食がつきものである。古代人の間では繰り返し一緒に食事をすることが、血族関係であることをあらわした。
 われわれの祖先たちにとって、一緒に食事をすることは、肉体を構成する実体を同じくすることであった。それゆえに食事を共にすることは、血縁の間でのみ行われる行為であった。今日その習慣が、飲食を共にする披露宴として受け継がれている。

◎食事の意味
 かっで性的なタブーが存在したように、食物のタブーが存在した。古代のローマでのパン共用式婚姻では、花嫁と新郎は一緒に食事をした。一緒に飲むことも、結婚を正式にとり行なうことの共通の方法である。
 ナバホの花嫁と花婿は一緒にトウモロコシプリンを食べた。飲食をともにすることが結婚式の形となり、そして日本やロシア、スカンジナビアでは結婚式典に豪華な食事が準備された。
 最近までセルビアの花嫁は生涯一度だけ男と食事をとるという習慣があった。それは彼女の結婚式に夫と食事をするときである。へブライ人の結婚では、ユダヤ僧がワイングラスを2人に手渡し両者が飲みほした後に、グラスが新郎の踵の下に投げ捨てられた。グラスが壊れることは永遠性を現わし、ガラスが再び完全にされるまで、花嫁と新郎が幸福と愛に結ばれるという。

(2)付添人の起源

◎花婿付添人

 ベストマン(花婿付添人)は、略奪結婚の名残りである。古代の花婿が花嫁を捕らえる場合、彼は力強い友人をともなった。アングロサクソンの男は馬で女性の家に行き、目的を告げた。もし彼女が協力的であれば穏やかに扱われ、そうでなければ彼女はサドルに縛られて連れて行かれた。もちろん彼女の父は力の限り追跡したが、新郎は友人の手を借りて追及を逃れた。この勇ましい友達が、花婿の付添人の起源であると信じられている。

◎花嫁付添人
 花嫁の付添人の起源は、女性側の抵抗の習慣にある。略奪結婚で彼女の友人は襲われた花嫁を救おうとした。花婿の友人が花婿の付添人に変化したように、花嫁の友人は花嫁の付添に変化したのであろう。
 しかし、花嫁の付添の起源に別な意見もある。古代ローマでは、荘重な結婚式典には10人の証人をおくことが習慣で、大抵証人は花嫁の友人であった。古代史家は花嫁付添人(女性)は、古代ローマ人の証人から変化したものと考えている。

◎フラワーガールの起源        
 今日のフラワーガールは中世の習慣に基づいている。2人の少女(大抵姉妹)は同様の服を着、小麦の花輪を持って結婚行進の花嫁の前を歩いた。小麦の花輪は結婚が実りが多いことの、そして花嫁と花婿への「限りない幸福」を表した。のちに小麦の花輪は装飾用の篭に代わり、花嫁の小道で篭から花がばらまかれた。

◎ページ(小姓)の起源
 ページ(小姓)は花嫁のガウンの裾を持つ役をする。ルネッサンス時代にページは宮廷での行進に大事な役目をした。中世イングランドで、ページは初めて結婚式の役を担い、今日まで続いている。かってのページの習慣を結婚式に取り入れることで、結婚をいっそうロマンチックで華やかにさせることに役立っている。

(3)結婚指輪

◎指輪の持つ魔力

 原始人は魔法のもつ超自然な力を信じた。ある原始人は、自分の指に紐を結わえ、もう一方を彼が望んでいる女性の腰をそれで縛った。彼らはこうすることで、女性の霊が彼の体に入ると信じていた。輪の力によって、彼女は永久に彼と結ばれたのである。

◎円の象徴
 結婚指輪は結婚する者同士の意志の象徴で,彼らの誓いを永久に保管し,結婚によって結びつきを永遠に固めることを認めあうのである。
 権威者によれば,指輪は男と女を結びつけた円であるという。原始人にとって妻を持たない人間は半人前であり,夫なしの女性も同様であった。彼らが結婚したとき,二人が統一されて完全となるのである。

◎最初の結婚指輪
 最初に結婚指輪を使ったのがエジプト人であることが,古代のエジプト文書に記録されている。象形文字では円は永遠を表し,永遠にわたって二人を結びつける象徴に円形が採用されたのである。古代ローマ人は,簡素な鉄の指輪を使った。シリア人,ヘブライ人,ギリシア人は文書に署名するための印章に指輪を使った。初期の時代,ヘブライ人の結婚の習慣によると,二人の証人(ユダヤ僧侶)の面前で,花婿は花嫁の指に指輪をはめ,結婚を誓った。
 初期のアングロサクソン人の花婿は,婚約式で花嫁の右手に指輪がはめられ,結婚式に左手にはめられた。指輪は,西暦860年程前よりキリスト教徒の結婚式に使われた。夫婦契約が正し〈交わされると,カップルの名前を刻んだ指輪が客に回されて,彼らによって承認されたことが伝えられている。

◎結婚指輪の変遷
 シェークスピア(1564〜1616)の時代には、結婚指輪に文字を彫ることが習慣で、3、4行の詩が指輪の内側に彫られた。これは結婚の記録をいつまでも残すためであり、17世紀においても続けられた。結婚指輪はメアリー女王の時代のあと、飾りのない甲丸が好まれた。それは派手な結婚指輪に対する反発であったと思われる。この簡素な指輪は英国民の間で人気を博し、その習慣はヨーロッパ中に広がった。そして今日でも、結婚指輪の正しい形式と見做されている。婚約指輪と結婚指輪を一緒につけるときは、結婚指輪を内側にし、婚約指輪を外側にはめることになっている。

◎薬指にはめる意味
 指輪は夫への妻の従属を示すために、左手にはめたと言われる。かって右手が力と権威、左が服従を表した。結婚指輪を左手の薬指にはめる習慣は11世紀ころからと言われている。古代ギリシア人が伝えるには、左手の薬指は血管を通して心臓から直接血液が流れこんでいる大切な指という。
 アングロサクソン人の式典では、花婿が花嫁の左手の指の各々に順番に指輪をはめることが習慣であった。まず最初に花婿は、「父の名において」2番目に「子の名において」3番目に「聖霊の名において」といい、4番目と最後の指では、「アーメン」といい結婚式は完了した。

(4)花嫁のベール
 古代よりベールは花嫁の服従を示すために用いられたと信じられている。
それとは反対に、ベールは元々自由の象徴で、結婚式で自由に飛んでいくために髪に付けた習慣として続いたという説もある。
様々な古代の慣習で、ベールは結婚式まで未来の夫から花嫁を隠すために用いられた。
たとえばエジプトでは、新郎は結婚日まで花嫁の顔を見ることを許されなかった。

◎隠すためのベール
 ベールで顔を隠す風習は、中国、ビルマ、韓国、ロシア、ブルガリア、満州、ペルシャなどで見られた。べドウィン族で花嫁は、女子が運んだ天蓋の下に完全に隠された。中国人の間では、神聖な傘は頭に降り注ぐ悪を妨げるために、頭上に掲げられたという。へブライ人の結婚式では、花嫁と新郎の頭上にペンダントのついた四角の覆いを立てる慣習がある。これは一種の天蓋で、4人の友達によって花嫁と花婿の頭上に覆われる。この天蓋の風習は、より高次の力を認める宗教的欲望から生じたと考えることができる。2人を保護する天蓋によって、高次のパワーに対する恐怖を象徴しているのである。

◎ベールのもう1つの説
 ベールは初期のローマ人とへブライ人の結婚式に用いられた。これらのベールは黄色(リンネル製である)で、聖骸布のように彼らをすっぽりと包んだ。初期の民族の間でベールは、まさしく聖骸布であった。それは結婚式典で用いられ、そしてその女性が亡くなり埋葬されるときに再び取り出された。最近までヨーロッパの農民の間で、タンスに花嫁の晴着を納めておく習慣がある。そしてそれは「花嫁を埋葬」する時に再び取り出された。

(5)花嫁の飾り花
 古代人にとって「結び目」は信頼の象徴で、分離できない結婚の義務を象徴するために使われた。古代アングロサクソン人の花嫁は、友達に小さい結び目かりボンを与えた。この習慣は花婿のブートニア、花嫁の持つリボンで結んだ聖書又はブーケとして復活した。

◎オレンジ花とギンバイカ
 オレンジ花は昔から花嫁が身にまとうか手に持った。オレンジ花は、幸運と幸福の前兆と信じられた。詩人のスペンサーとミルトンは、オレンジが結婚の日にジューノーからジュピターに提示された「金色のリンゴ」であると考えていた。多分この為にオレンジ花がのちに、結婚の幸福と結びついて連想されたのである。
 またギンバイカはビーナスの神木であった。ギンバイカの長く保つ新鮮さは、神のお気に入りの印と信じられ、義務と愛情と志操堅固の象徴に使われた。またスズランとバラは大好きな結婚式の花として用いられた。しかしそれはその意味よりも可愛いいことが重要であった。また古代のギリシア人は、バラを花の女王と見なし、それを美と幸福の象徴と見なした。また若いローマ人は、彼らが賞賛した婦人にバラの篭を贈る習慣があった。
 ある時期花輪は、結婚式典では不可欠なもので、花嫁の頭上に飾られ、「良い女性の宝冠」として知られていた。古い本によると、花輪を身につけることは、有徳の花嫁だけの特権であった。そして花嫁の美徳を表すために、「指輪と胸の上のブローチと頭の上の花輪を身につけるべきである」と書いている。

◎花嫁のブーケトス
 花嫁がブーケを投げる習慣は、花嫁のガーター(靴下止め)を奪い合う古い習慣が起源となっている。14世紀初期のフランスで、花嫁のガーターを得ることは、幸運なことと見なされた。そして誰もが式典の終わりに駆けつけた。花嫁はガーターが容易に取れるように弛くしておいたが、それでも彼らは格闘でしばしば怪我をした。ある賢い花嫁は、ガーターの代わりにブライダル・ブーケを投げた。この習慣が普及し、そして幸運な少女がこの花束を捕えれば、彼女が次に結婚すると言われている。


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