日本人の人生儀礼



4初宮参り 
 初宮参りは、赤ちゃんが氏神の子となるための儀式で、出生地かこれから住む土地の氏神へ参拝するのがしきたりである。誕生して1か月後ぐらいを幼児の忌み明けにあたり、産土神(自分が生まれた土地の守り神)や氏神にあたる神社に参詣し、初めて産土の子、あるいは氏神の子(氏子)となる。

◎初宮参りの日
 初宮参りの日は地方によって違うが、男の子は生後30日目、女の子は生後31日目とされている。伊勢地方では百日詣といって、男女とも生後百日目に行うo

◎初宮参りの仕方
 お参りの仕方は、神前で合掌して祈願するが、社務所に申し出ると、神官がお祓いをして祝詞を上げてくれる。お礼はのし袋に「御玉串料」とか「御初穂料」と表書きする。

◎初宮参りの付き添い
 ふつう父方の祖母が赤ちやんを抱き、母親はその後に従う。これは、産後間もない母親の母体をいたわる意味と、子供は「家の子」という意味と思われる。

◎赤ちゃんの晴れ着
 初宮参りのとき、赤ちゃんに白羽二重の内着を着せ、その上に妻の実家から贈られた晴れ着をかける。男児の場合は、紺か黒地の染め抜き五つ紋付の羽二重地に、めでたい図柄や、男の子らしい勇壮な図柄の「のし目模様」、女児の場合は、綸子地や縮緬地に、花柄をあしらった友禅模様の着物をかける。祖母が赤ちゃんを抱いた上から、着物の紐は首にまわして蝶結びにする。最近では、ベビードレスを着せた赤ちゃんを父親が抱き、夫婦だけで初宮参りするケースも増えている。

◎付き添いの服装
 赤ちゃんの晴れ着に合わせて、付き添いの服装が決まる。従来どおりの祝い着を赤ちゃんに着せる場合、付き添いの装いは準礼装となる。祖母は色無地の紋付か地味な訪問着か色留袖などに、帯は袋帯か名古屋帯。母親は祖母と同じように、黒留袖・色留袖・色無地紋付・訪問着・付け下げに、帯は袋帯か名古屋帯をしめる。洋服の場合は、改まった感じのスーツか、アフタヌーンドレス。父親は、準礼装の略礼服かダークスーツ。

5 食い初め
 食い初めは、赤ちゃんに初めてご飯を食べさせる儀式で、箸初めとか著揃えともいう。この儀式は、赤ちゃんが一生食事に困らないようにと願うもので、普通は歯が生え初める生後120日目に行う。また誕生から100日目に「色直し」という祝いがあり、これまでは白い衣服を着せておいたのが、この日に晴れ着の着初めをして祝った。この色直しと食い初めは日数が接近しているので、この2つの祝いを兼ねて食い初めの祝いとして行う場合が多い。もともと「魚味始(まなはじめ)」という行事からきたもので、必ず魚を使う。

◎祝いの食器
 祝いに用いる膳は、膳、椀、箸等すべて新しいものを用意する。本格的には漆器の膳に、漆器の食器、柳の白木の箸が使われる。

◎献立
 本膳は一汁三菜(飯、汁、菜三品)で、赤飯、鯛の焼き物、煮物、香の物に清汁を添える。
さらに、歯が丈夫になるようにと、歯固めの小石か、紅白の餅か勝ちグリをのせる。食い初めの儀式は、この献立を実際に食べるのではなく、食べるまねをする。順序は、飯、汁、飯、魚、汁の順に口をつけ箸を置く。

◎食い初め式
 食べさせるまねをする人を養い親といい、親類の中から長寿の者が行った。しかし今では、祖父母に頼む場合が多い。まず、鯛のお頭の肉を少し箸にのせて、食べさせるまねをする。次に、赤飯や吸い物も、箸先で食べさせるまねをする。紅白の餅や小石を箸で触ってから、赤ちゃんの歯ぐきに著をそっと当て「歯固め」の式も済ませる。

6 初節句
 赤ちゃんが生まれてから、最初に迎える節句を初節句という。女の子は3月3日のひな祭(桃の節句)が初節句になり、男の子は5月5日の端午の節句が初節句となる。

◎初節句の由来
 中国では3月3日に、身のけがれを祓うために川に入ってみそぎを行った。平安時代に日本に入ったこの風習は、人形(ひとがた)を作って、自分の汚れを取り除く雛人形に形を変化させていった。ひな祭の祝いにはひな壇に菱餅やひなあられ、白酒などを供え。端午の節句の時には、鯉のぼりをあげ、武者人形を飾り、ちまきや柏餅を供えて祝う。ひな人形の飾り方は向かって左に男びな、右に女びなを飾る。端午の節句は、薬草として力のあるよもぎや菖蒲を湯に入れて毒気祓いをした。江戸時代には武者人形や出世魚の鯉が飾られるようになった。「御初節句」と書く。人形の代わりに現金を贈るときは「御人形料」とする。

7 初誕生
 日本では、お正月を迎えるたびに年をとるという習慣であったため、誕生祝は一般には行われなかった。しかし、生まれてから一年目の誕生日だけは、昔から初誕生といって、餅をついて健やかな成長を祝った。祝い餅は、嬰児が立ち歩きができるようになったことを祝う気持ちや、健康の子どもに育つよう願いをこめてついたもので、「立ち餅」とか「力餅」などと呼ばれている。ある地方では嬰児が誕生前に歩くと、「成人してから家を遠く離れて暮らすようになる」といって、早く歩きだした子には鏡餅を背負わせて、わざと倒させるという儀式や、男の子にソロバン、筆、すずり、女の子に物さし、針などを並べ、その中から選ばせて将来を占うという風習があった。
 今日では、初誕生日に赤飯をたいたり、バースデー・ケーキにローソクを一本立て、ごちそうを囲む欧米風の祝い方が一般的となっている。

◎初誕生祝いの贈り物
 初誕生祝いの贈り物には、おもちや、ぬいぐるみ、衣服、靴など身のまわりの品が一般的で、贈る場合は、紅白の水引を蝶結びにしてのしをつけ、表書きは「祝初誕生日」とか、「御祝」とする。

◎お祝いのお返し
 お祝いのお返しは、原則として不要。土地の習慣によっては、誕生祝いを頂いた近所の人に、餅を小さく切ったものや、赤飯を内祝いとして配るところがある。

8 七五三
 七五三の行事は、子供の成長を祝う儀式で、数え年で男児は3歳と5歳、女児は3歳と7歳にお祝いを行う。しかし最近は満年令で祝う人が多くなっている。武家社会では、男女とも3歳になった時に、「髪置きの式」といって、それまで剃っていた髪を長く伸ばして、唐子まげを結う儀式があった。男児が五歳になったときには、「袴着の式」があり、男児が袴をはき、小袖を着て、扇子をもって碁盤の上に吉方を向いて立つ儀式があった。 また、女児が7歳になると、「帯解きの式」といって、着物の付けひもをとって、本式の帯をしめ、着物は振り袖にかえる儀式を行った。このように、七五三は、この3つの儀式をまとめたもので、11月15日に決められたのは、この日に五代将軍徳川綱吉の子、徳松の祝いを行ったからだといわれている。

◎お宮参り
 お宮参りには、近くの氏神へ行くのが昔からのしきたりだが、都市部などでは、有名な神社に参拝することが多い。社務所に申し出て、神官にお祓いをしてもらうこともある。お宮参りのあとには、千歳飴を買い、親類などに配り、子供の成長の喜びを分かち合う。

◎晴れ着
 3歳の女児の晴れ着には、生後一か月の初宮参りのときの掛け着に、袖なしの被布を着せる。5歳の男児の服装は、着物なら紋付の、のし目模様の長袖着に羽織・袴といった正式なもの。洋服であれば、背広のような改まったものを着る。7歳の女児の晴れ着は、総柄の友禅の着物に帯をしめ、しごき帯を垂らし、筥迫を胸元に入れ、帯の間に扇子をはさむのが正式。

◎付き添いの服装
 付き添いの服装は、子供の服装と調和のとれたものが望ましい。子供が正式な服装の場合は、母親は黒留袖・訪問着などの礼装か略礼装にする。洋服では改まった感じのドレスかワンピース。父親はダークスーツなどにする。

◎七五三の贈り物
 七五三の祝いの品には、それぞれの年令にあったものを贈りたい。一般にお宮参りの晴れ着に必要な小物などが贈られる。女児ならハンドバッグやリボン、男児ならワイシャツやネクタイなど、お正月や小学校の入学式などにも使えるものを、前以て子供の両親に聞いてから選ぶようにしている。正式な晴れ着をそろえる場合は、母方・父方のそれぞれの実家が、費用を負担する例もある。お祝いの品には紅白の水引を蝶結びにしてのしをつけ、表書きは「御祝」「祝七五三」とする。

◎お返し
 お祝いに対するお返しは、いただいた品物の3分の1くらいの金額を目安とする。表書きは「内祝」として、子供の名前を書き、その右肩に年令を書く。遠方からお祝いをもらった場合は、お礼の品とともに、別便で礼状と七五三の記念写真を同封することもよい。


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